老化は治療できる!?最先端の遺伝子研究が明かす老化の真実

読書日記

世間がオリンピックに沸いていた頃、私は自宅近くの本屋で、新しい本を物色していました。

ふと目にとまった「老化は治療できる病である」という文字。「LIFE SPAN 老いなき世界」のポップです。

…なんて胡散臭いんだろう、だいたいの人はこう思うかもしれません。ご多分にもれず、私もその場はあっさりと通り過ぎてしまいました。

ところがその後、何となく気になって調べると、この本が全世界でベストセラーとなっている話題の本であることを知りました。胡散臭いと思っていた「老化は治療できる病である」という一言は、なんとハーバード大学医学大学院で遺伝学の教授を務め、数々の歴史的論文を発表している世界的な老化研究の第一人者である、デビット・A・シンクレアが主張しているものだったのです。

これはもしかしたら本物なのか?そう思った私はそのまま本屋へ直行。分厚い本の後半100ページのほとんどは参考文献や引用された論文の注釈であり、この本が独りよがりの主張ではないことが伺えました。

結論から言うと、この本を読んで私の老化に対する認識は180度覆され、胡散臭さは消えました。

老化の唯一の原因

皆さんは老化の原因について考えたことがあるでしょうか?

少なくとも私はないです。生命とは歳をとっていずれ死ぬもの。歳をとればシミやしわが増え、運動機能も衰える。歳をとることで、生活習慣病やがんなど、あらゆる病気にかかりやすくなる。そんな事は当たり前で原因なんてない、と思っていました。

ところが、この本の著者デビット・A・シンクレアは、生命は老いるようにはできておらず、老化には原因があると主張します。その原因となるのが、「老化の情報理論」であり、平たく言うと細胞の中のDNAの情報が喪失される事です。専門的な話になるのでここでの説明は割愛しますが、本書では身近なものを例えに、専門知識がない人でもわかりやすいように、そのメカニズムと理論の裏付けが説明されています。

老化は治療できる

がんや心臓病、糖尿病などのありとあらゆる病気のリスクは、年齢が上がるごとに指数関数的に高まります。老化はあらゆる病気の根源、いわば、ドミノの最初のピースであり、老化は病気である、と本書の著者は言い切っています。

例えば糖尿病になったらそれを治療するように、老化が病気でありその原因も解明しているならば、老化を治療すること、つまり健康寿命を延ばすことは自然なことだ、と。

老化を治療する薬については、まだ研究段階であり、実用化されているものはありません。しかし、老化のメカニズムが解明された今、可能性を秘めた数々の治療薬が研究されています。

例えば、ビタミンB3の一形態であるNR(ニコチンアミドリボシド)や、ブロッコリーやキャベツなどに含まれているNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)。マウスを使った実験では、NMNを与えた高齢のマウスが、若いマウス以上の持久力を発揮したことなどが報告されています。人間を対象にした研究は現在進められている段階ですが、今後の可能性には大きく期待できそうです。

殊に、NMNについては既に本書の著者や著者の家族も服用し、著者の父親においては、80歳を超えているにもかかわらず以前より活動的になり、ハイキングや海外旅行を楽しむほどである、と記載がありました。

本書では他にも、健康寿命を延ばす生活習慣の改善方法として、一時的な断食を取り入れる、動物性たんぱく質を控える、運動をする、などすぐにでも実行できる方法について説明されています。巻末のあとがきには、全ての人に当てはまるわけではない、と注記しながらも、著者が実際に健康寿命を延ばすために取り入れている生活習慣が紹介されています。老化研究の第一人者が取り入れている生活習慣となれば、否が応でも取り入れたくなりますね。

老化を克服する未来

本書では他にも老化そのものを克服する細胞のリプログラミング、つまり細胞そのものを若返らせる研究についても紹介されています。実現するにはまだ時間がかかるようですが、もし実現すれば、人間は老いない身体を手に入れることも可能、だとしています。

また、医療においても、ゲノム解析などを取り入れることによって革新的なイノベーションが起きると著者は予想しています。例えば、パーソナルセンサーを導入して身体の状態を読み取り、不足している栄養素やどれだけ運動すれば良いか等を提案してくれる技術や、自分の幹細胞から必要な臓器を”プリントアウト”する技術まで、実現の一歩手前まで来ています。人類が老いを克服する時代は私たちが想像しているよりもずっと早くやって来るのです。

それと同時に、健康寿命が延びるということは、新たな問題を生み出すことにもなります。今よりも更に拍車をかけて高齢化社会は加速するだろうし、人口が増えれば食料問題や、大量消費の問題も今より深刻になるでしょう。本書ではそういった問題に対しても、著者独自の考えで解決策を提案しています。

読んでみた感想

500ページ近くある読み応えのある本でしたが、3日間で一気に読んでしまいました。本書は老化しない身体を手に入れるための実用書というよりも、老化研究の歴史や、老化を克服する未来の技術、また、健康寿命を延ばすことについての倫理的な問題までをカバーする壮大なノンフィクションでした。

永遠に歳をとらない身体を手に入れたり、30代の見た目や体力のまま80代、90代を迎える、というSFの中のような話が、あと一歩で現実になろうとしているなんて、想像しただけでワクワクします。人生設計だけでなく、働き方、年金制度、保険など、世の中のありとあらゆる分野に影響を与える研究になりそうですね。

私は定年退職したら世界中を旅行したいという夢がありますが、身体が健康で動けることが前提です。今の段階ではせいぜい70代くらいまでかな、と思っていますが、これが80代、90代まで活発に動けるとなると、旅行に行ける国の数はぐっと広がりますし、もしかしたら90代でハイキングなど楽しめるかもしれません。

私はシンプルに健康寿命が延びる=楽しめる時間が増える、と捉えていますが、これには賛否両論あると思います。そんな自然の摂理に反してまで長生きしたくはない、と思う人もいるでしょう。

長生きしたくない、というのは現在の老いに対する印象が、あまり良いものではないからではないでしょうか?何かしらの病気を抱え、下手したら寝たきりの生活で介護が必要な状態を想像しているかもしれません。そんな老後の時間が更に伸びるのは嫌だと思う人は多いと思います。

しかしこの本の著者が研究しているのは「健康寿命」を延ばすことにあります。老化を治療することで、30代、40代の元気な状態を維持したまま、戸籍上の年齢は120歳!ということも可能だと主張しているのです。そもそも老化が病気だとすれば、老化しないのも自然の摂理に適っていると考えることもできます。よもぎはこれは世の中が大きく動く話だと思いました。

専門用語や難しい遺伝子の名前なども出てきますが、身近な例を使ってわかりやすく説明されており、まったく背景知識のない文系の私でも難なく読み進められました。著者の語り口が優れており、これはSF小説を読んでいるのか!?というくらい。最近の技術は目覚ましく進歩しているのだと、読んでいて高揚を抑えられませんでした。また、科学的な話だけではなく、健康寿命を延ばすということは自然に反するのか?といった倫理的な問題まで考えさせられる一冊です。

このブログを読んで少しでも気になった方は、ぜひ本書を手に取って読んでみてください。

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